最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)2637号 判決 1950年3月31日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人松永義雄の上告趣意第一点について。
被告人は、原審において、自分の住居が埼玉縣北足立郡宗岡村にあることを述べた上、原判示のように北足立郡内各所において各犯行に及んだことを認めているのであって、原判決挙示の証拠である原審公判における被告人の供述は、所論細田清吉方が埼玉縣北足立郡宗岡村にあることを認めたものと解せられるのみならず、北足立郡が東京都にはなくて埼玉縣にあることは公知の事実である。それ故、所論原判決の記載は誤記であること明白であって、論旨は理由がない。
同第二点について。
始末書その他の証拠書類については、これを朗読し又はその要旨を告げることを以て証拠調の方式とし、これを被告人に示す必要のないことは、旧刑訴第三四〇條の規定するところであり、原審第二回公判調書には、証拠調として、裁判長がその他の書類と共に「各始末書」を「順次読み聞かせ又はその要旨を告げ・・・その取調の終る毎に意見弁解の有無を問い且右各書類の作成者供述者の訊問を求め得る旨尚利益の証拠があれば提出できる旨を告げたところ被告人等は別にない旨答えた」とあって、所論矢部喜三郎外二名の被害始末書についても、それぞれ適法な証拠調の行われたことを認めることができる。それ故論旨は理由がない。
同第三点について。
原判決が、所論各事実につき法律を適用するにあたり、所論各法條を適用して新旧両法の比照をなすべきであるのに、これをしていないことは事実であるが、本件は結局は軽い行為時法を以て処断すべき場合であって罰金等臨時措置法を特に掲記していない点からみて、行為時法、即ち、同法を以て改正前の刑法第一三〇條によって処断したことが判るから、前記の瑕疵は、原判決を破毀する理由にはならない。それ故所論は採用することができない。
よって、刑訴施行法第二條、旧刑訴第四四六條に従い、主文のとおり判決する。
右は全裁判官一致の意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)